ローリスク・ノーエノン
最近、小説を書きました。今日のこんな作文よりそっちの方が遥かに重要なので、下に貼ったURLから賢明な未読者さんたちはそっちの方を読んできてください。
ただ、上に貼ったURLから読める話は長く、暗く、重いので、そういうのが無理だという人は、こっちの短く、軽く、ノリで読める方を読んできてください。こっちもつい最近書いた物です。タイトルから察せる通り本当にノリで読む物なのでよろしくお願いします。
では作文の本題に入ります。
上に載せた二つの小説のうち、前者を読んだ人間はほとんどいません。作者からは閲覧数が確認出来るので断言できます、ほとんどいないのです。oneフォルダsevenシンズを読んだ人間の数なんかより、一般人は聞いたこともないような奇病の国内罹患者数の方がたぶん多いだろうと半ば確信できるくらい、本当にほとんど読まれていません。
対して下に載せた方(二つある内の後者)の、人前でタイトルを読むこともためらわれるような小説は、そこそこ閲覧数が付いています。前者の十倍以上……というか四十倍くらいあります。かけ算の元の数字が小さすぎるので、数値として特別大きいわけじゃないのですが、それはそれとして差が大きいことは確かです。
そしてぼくが確認することの出来るこの「閲覧数」というやつは、言い方を換えると「アクセス数」という物になります。つまりその数字は、読破した人の数を保証する数字ではなく、少なくとも最初の一行を画面に表示した人の数を保証する数字であるわけです。
……要するに、確率的に、誰も前者の小説を最後まで読んでいないことだって、あり得ることになります。
なんとなく察せているかもしれませんが、より力を入れて書いたのは前者の方です。
……名作ミステリ小説「九マイルは遠すぎる」の著者ハリイ・ケメルマンは、同書の序文にて、こんなことを言っていました。
「作家はしばしば、一篇の物語を書き上げるのに、どのくらいかかるかと問われることがあるものである。ここにそのひとつの答えがある。それは一日で済むかもしれないし、十四年かかるかもしれない、どちらと見るかは人それぞれの見かたによる。」
この言葉は、素人が趣味で物を書く場合でもまったく同じ通りだと思います。ぼくが冒頭でURLを載せた二つの小説のうち、特に前者の方は、書くために年単位の時間を要したとも言えるし、一週間と一日で済んだとも言えるわけです。
今までの人生があったから書けたという見方をすることも出来る……という意味では後者の方の小説も同じなのですが、そっちの方は執筆開始から一日で書き終えることが出来ました。一万文字ちょっとの後者を書くのは一日で終わるのに、四万文字ちょっとの前者を書くのには一週間かかったことを照らし合わせてもらえると、前者を書いていた時のぼくの苦労が若干伝わるのではないかと思います。
そして前者の方は、どうにも書き進められずに一度諦めたこともありましたし、それは「一週間と一日」という「執筆期間」にはカウントしていません。一方で後者の小説は、それを思いついたのは書き終える前日でした。
過去、ここのサイトに載せた作文の中にて語られた「イノベトラル」という名前を覚えている人はいるでしょうか。その珍奇な名前のキャラクターを、つい最近になってようやく作品として成立させられたのです。長い道のりだったんですよ。
……だから当然のことながら、ぼくは前者が全く読まれないことの原因を探ろうとするのですが、そこでまず第一に言っておくべきことがあります。それは「内容がつまらなさすぎる、ということはあり得ない」と考えていることです。
はい、それだけは無いです。主観的な意味でもそうですし、以前それなりの閲覧数を記録して肯定的な感想や評価までもらった過去作品の中にも、今回と似たような長く暗く重い話があったことから、内容が問題であるわけではないと考えられます。
ではいったいどこに問題があるのだろう? それを突き止めるために、比較対象として、ぼくは直近でそこそこ閲覧数が付いた後者の小説が、なぜその閲覧数を付けられたのかを考えました。そしてその答えを得るために、自分のさらに過去の作品まで遡り「閲覧数の多かった作品」をリストアップして、そのリストにあるはずの何かしらの共通点を探してみました。
まずはタイトルを見てみよう……ということで、これから、300件以上の閲覧数が付いた自分の過去作品のタイトルを並べていきます。閲覧数の多い順に並べました。またここに記載する閲覧数は全て、この作文を書いている十二月七日の昼頃に確認した数値となっています。
また「閲覧数」を見る都合上、更新されるたびに繰り返しページへアクセスすることになる「連載形式の作品」は除外しておきました。
以下、リストです。
・「恩返しの鳥類」……閲覧数5602件 (公開日2020年5月)
・「セックスしないと出られない部屋」……閲覧数1087件 (公開日2020年9月)
・「僕のクラスには雪女がいる」……閲覧数916件 (公開日2015年10月)
・「マッチ折りの少女」……閲覧数832件 (公開日2016年4月)
・「勇者はオナニーがしづらい」……閲覧数476件 (公開日2020年12月)
・「動機を答えよ」……閲覧数452件 (公開日2017年4月)
・「縛られる視線」……閲覧数413件 (公開日2016年12月)
・「もったいない闇医者」……閲覧数392件 (公開日2020年5月)
・「深夜十二時の鐘が鳴る頃、シンデレラたちはすやすやと眠っている」……閲覧数369件 (2016年10月)
・「空を飛ばない青い鳥」……閲覧数355件 (公開日2016年12月)
・「体も心も痛まない」……閲覧数347件 (公開日2016年8月)
・「スケープゴート(バーチャル謎肉、二次創作。)」……閲覧数341件 (公開日2019年12月)
・「触れられるのは一度だけ」……閲覧数334件 (公開日2015年12月)
……はい、閲覧数300超えの作品はこれだけありました。13個ありますね。
これらのリストのうち、例外的に扱うべき物が一つあるのでそれを先に挙げておきます。「スケープゴート(バーチャル謎肉、二次創作。)」ですが、これはタイトル通り二次創作作品であり、なおかつ18禁作品です。これら二つの特徴を同時に持つ作品は現状これ一本のみなので、共通点探しのデータとしては例外的に扱います。
例外を除いた12作品のタイトルにある共通点はなんだろう? そう考えて自分の過去作を見た時、全てではなくともある程度多くの作品に共通する点を一つ見つけました。それは「元ネタがあること」です。
そのまんまタイトルにしている「セックスしないと出られない部屋」とは一部界隈で有名な概念ですし、「雪女」「マッチ売り(折り)の少女」「シンデレラ」と元ネタの存在がタイトルの時点で明らかな作品が三つもあります。そしてタイトルからは分かりにくいかもしれませんが、読者の皆様方が小説投稿サイトで読み物を探す時に、タイトルと一緒に必ず見えるはずの「あらすじ」に「現代版、鶴の恩返し……!!!!」と書いてある「恩返しの鳥類」も元ネタがある作品と呼ぶことが出来るでしょう。
12作品中5作品が、元ネタの存在が明らかな小説でした。そして13位中の1~4位をそれら5作品のうちの4作品が独占しています。……これはもう、「元ネタの存在がタイトル(あらすじ)から見えること」が、閲覧数を増やすことに貢献していると言ってしまって良いでしょう。
ちなみに閲覧数300件未満の作品数は20個あり、そのうち元ネタの存在が明らかなタイトルは「西の魔女が死んだ」のパロディ的ネーミングである「北の人魚が死なない」ただ一本しかありませんでした。さらにその一本の作品の物語は、あらすじを見て明らかに分かるほど、西の魔女が死んだとは一ミリも関連していない内容となっています。
以上のことから、過去作品のタイトルを見ただけでも「元ネタの存在を匂わせている物が強い」という傾向が読み取れます。……が、「oneフォルダsevenシンズ」というタイトルはもちろん「勇者はオナニーがしづらい」なんてタイトルにこれといった元ネタはありません(「七つの大罪」と「勇者(概念)」という見方も出来ますが、それを言い出すと「青い鳥」や「闇医者」やその他様々な単語も定義に巻き込まれかねないので、それらは一旦切り離して考えます)。
作品ごとに生まれる閲覧数の差が大きすぎること。その謎は、元ネタのあるタイトルだけでは説明しきれなさそうです。というわけで、次はあらすじの方を見てみましょう。例えば「暗い話はウケない」などの傾向があるなら、それがあらすじの表すところから読み取れるはずです。
・「恩返しの鳥類」のあらすじ
……現代版、鶴の恩返し……!!!!
・「セックスしないと出られない部屋」のあらすじ
……セックスしないと出られない部屋に拉致られた学生、小田君と佐藤さん。二人はなんとかして部屋から出られらはしないかと奮闘するけれど、小田君の方は一人で黙々と、的外れな思考を深めていくのだった……。
救えない人間は、セックスしたって結局救われないと思います。
・「僕のクラスには雪女がいる」のあらすじ
……隣の席の女子、彼女は雪女と呼ばれている。
・「マッチ折りの少女」のあらすじ
……雪の降る夜。真っ白な雪の積もる夜には、マッチ折りの少女が現れるらしい。
・「勇者はオナニーがしづらい」のあらすじ
……現代の勇者は性欲が強かった! そんな彼が打倒魔王を達成するまでの愉快な一部始終をお送りします。
・「動機を答えよ」のあらすじ
……見上げる彼の視界には、配線コードのような物と火花が映っていた。
・「縛られる視線」のあらすじ
……以前から家に帰ると視線を感じる。誰かに見られている。視線の正体を突き止めることもできずに時は流れ、今日も仕事を終えては居心地の悪い家に帰る。
他に見る物もないのでテレビを点けると、芸能人が怪談や都市伝説を語る番組が映った。するとそこで話される内容が、なにやら自分の境遇に似ているではないか。テレビを見るうち、いつもより強い視線を感じるようになっていく……。
・「もったいない闇医者」のあらすじ
……誇張でもなく比喩でもなく、正真正銘どんな患者でも立ち所に治療してしまう凄腕の闇医者「蟷螂蚕(とうろう・かいこ)」が主人公の話。
・「深夜十二時の鐘が鳴る頃、シンデレラたちはすやすやと眠っている」のあらすじ
……シンデレラが仲良く家族で暮らす平和な話です。
・「空を飛ばない青い鳥」のあらすじ
……中学三年生の瑠奈は幼い頃に両親が離婚し、父に育てられてきた。その父が、半年ほど前に再婚した。
再婚相手の女性を受け入れることができず、家に居場所がない。何をするわけでもなく公園にいた彼女に、妙に惹かれる声を持った男が現れる。彼は、瑠奈を誘拐するのだという。
本人曰く、彼の目的は、釣りへ行くことらしい。
・「体も心も痛まない」のあらすじ
……生まれつき肉体的な痛みを感じず、それどころか精神的なストレスも感じない。そんな女の子の話。
・「スケープゴート(バーチャル謎肉、二次創作。)」のあらすじ
……バーチャル謎肉たかぎさんの二次創作です。18禁です。
・「触れられるのは一度だけ」のあらすじ
……制服を着ていた。私は家を出て学校に向かう。
……はい、以上ですね。長い物も短い物もありましたが、数としては後者の方が多いように感じます。
リストアップしてみて分かった重要なことは、タイトルからして明らかに暗く重たく救いのないあらすじは存在しない、ということでした。実際の内容はともかく、あらすじの時点では、例えば明らかにバッドエンドだろうなと分かる物はありませんし、明らかに人が死ぬだろうなと分かる物もありません。一部「誘拐」「救われない」という不穏なキーワードが入ることはありましたが、物珍しいあらすじ(誘拐した娘と釣りへ行くとは?)の誘拐物が十中八九バッドエンドになると断言できる理由はないでしょうし、「救われない」についてはタイトルのインパクトが強すぎて「ギャグかもしれない」と思わせる余地があります。ホラー路線の匂いがする「縛られる視線」のあらすじについては唯一その傾向の例外かもしれませんが……。それはあとで考えましょう。
ところで、明らかに救いのなさそうな印象のあらすじがなかった一方で、あらすじとタイトルを見ただけでは内容がまったく想像のつかない物も混じっていました。「動機を答えよ」「触れられるのは一度だけ」が最たる例ですね。これらに閲覧数が多く付いたことから、少なくとも「内容が具体的に想像出来ない作品は軒並み駄作」ということはなさそうだと言えます。
さて、それではここで、閲覧数300未満どころか100未満になってしまった不人気作品のあらすじを見てみましょう。
・「oneフォルダsevenシンズ」のあらすじ
……「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」
偉そうにそんな台詞を吐いたエーミールは、もしかすると馬鹿だったんじゃないだろうか? ある人物がそう考えた。
異性、恋愛、心、人権、正義と悪、友達。……それらについての確固たる持論を持った人間たちと「人間ではない者たち」が絡み合う時、必ず誰かが幸せになって、必ず誰かが不幸になる。現代の若者たちを主役としたそんな微ファンタジー小説。
・「北の人魚が死なない」のあらすじ
……「他の人がやりたがらないことを率先して行える人は良い人だ」
頭のネジが何本か飛んでいる男二人が、食えば不老不死の力を得られるという人魚の肉を求めて北へ行く。
彼らのような人間は、案外傍にいるのかもしれない。
・「ロスト・ガーディアンスライム」のあらすじ
……外見からは人間との見分けが付かず、人類を滅亡に追い込む化け物「
異能力を持った童貞たち「
良い具合に腐りきった警察の先輩後輩コンビ、九段下&井納。
脱走した捕獲済み堕脳「
・「眠姫ザロウと漆モズ」のあらすじ
……安眠の魔女ザロウは友人の勧めに従い、人間として生徒として学校に紛れ込んでいた。どこのクラスにでもいるような冴えない陰キャ男子である漆モズは、ある日そんな魔女へ蛮行を働く……。
捉え方によっては恋愛小説です。
・「鎖付きアクアリウム」のあらすじ
……肉体的な苦痛を望む人外、被虐の魔女カッセロは、自らの欲求を満たすために度々弱者を演じる。そして今回はその手の目論見が上手く行き、彼女はまんまと誘拐の被害者となった。
しかし出会いがどんな形であろうとも、彼女のもとに現れる男たちは、多くの場合彼女を失望させる者たちであった。
・「デイフラワー・ザ・ゴールド」のあらすじ
…… ループする金曜日に陥れられた少年「志田」が、その元凶を見つけ出して全てを解決する超短編!(ジョジョパロディを多分に含みます)
……はい、2020年下半期だけの物を抜粋するとこんな感じです。過去の人気作品たちに比べると、ちゃんとあらすじを書こう、物語の内容を伝えよう、という気概がいくらか増しているように感じられます。
これはぼくの推測なのですが、あらすじは真面目であればあるほど不人気になるのではないでしょうか? タイトルがほぼあらすじと同義であるセックスしないと以下略を除けば、人気作品上位五つは全てあらすじが短い物になっています。それどころか13作品全体で見ても、長々と物語の内容を説明している物は数えるほどしかない一方で、そうではない物は10作品近くあります。
またその他に挙げられる特徴としては、最近の不人気作品のあらすじに共通する「長文の中のジャンルの不明さ」があります。
長文かつ不穏な雰囲気の漂う「縛られる視線」のあらすじは、しかし明らかにホラー系だろうと分かる内容をしていました。もちろんそれがミスリードというか騙し討ちである可能性もゼロではありませんが、最近の作品のあらすじにあるジャンルの不明さと比べればそれはほんの僅かなことです。
最近の不人気作には、一目見て「〇〇系の話だろう」と想像出来るようなあらすじが付いていません。そしてそれはタイトルを見ても同じです。書いたぼく自身ジャンルが明確ではないので、投稿する時はいつも「ジャンル……文芸」を選んでいるくらいです。
これは「空を飛ばない青い鳥」と同じような特徴だと言えますが……とりあえず主人公が誘拐されることは明らかなそれと、男二人で人魚の肉を食べに行くと語る作品のあらすじ、どちらが実体を想像しやすいかと言われたら、やっぱり前者の方になるんじゃないでしょうか。
また、デイフラワー・ザ・ゴールドだけはあらすじに思い切り「ジョジョのパロディ」と書いてあるのですが……これが不評だった理由は本当に謎です。元ネタがあってバトル物と分かりそうなのに。
しかしまぁ、そればかりは謎だったとしても、他の12作品(または11作品)については傾向が見えてきているので、大まかにはその方向で考えて間違いないでしょう。
そして、すでに言ったように、閲覧数とはアクセス数のことです。読破した人の数ではありません。もちろん口コミや、ランキングに載ること、投稿サイトの機能にある「推薦」を行ってくれる人(恩返しの鳥類が唯一、この機能の恩恵を得られた作品でした)、評価を見てから読むか否か判断する人の存在はあるでしょうけど、それでもせいぜい300件程度の規模なら、そこまで致命的な差が付く「閲覧数の資本主義」は存在しないのではないかとぼくは考えています。現にツイッターの方で数百数千のフォロワーを持つ人に読了宣言をしてもらった作品が、閲覧数100未満の不人気作品となっている例だってありますし、口コミ的な物を数の勘定に入れるのは基本的に無理筋であるように思います。
そうすると閲覧数とは、小説本文の内容ではなく「タイトルとあらすじ」でほとんど決まる物だ……と考えてしまうことも出来るようになります。完全にその通りだとは言えないでしょうけど、どちらかといえばその傾向があると考える方が自然なはずです。
さて、では結論として、今回の「共通点探し」から読み取れることとは何だったのかと言いますと、つまり閲覧数の多い作品とは……「元ネタがある物であり、なおかつ、あまり真剣に長々とあらすじを書いていない物」……であるようです。
特に元ネタがなく、あらすじが小難しい物は不人気となる傾向があると、そういうわけです。……ただこの考え方をすると、人気作品のうち長文あらすじの二作品のことをどう処理するのかに困るのですが……。
その二作品は例外として切り捨てて考えてしまっていいのでしょうか? ……いや、実はまだ、この過去作品のデータには隠された事項が残っているのです。それはいったい何なのかというと……。
連載形式の作品を除く全作品34個のうち、閲覧数100未満の作品は8個あり、そのうち6個は2020年下半期に書かれていること。
そんなショッキングな事実が、今回過去作品のデータを収集している最中に判明しました。
……つまり、ぼくの書く小説の閲覧数が頻繁に三桁を割るようになったのはつい最近のことであり、昔は人気作品の傾向に従っていない作品でも、少なくとも100件の閲覧数は付いていたことになります。
もちろん各年で小説の投稿数にはかなりの開きがありました。初めて投稿サイトに小説を上げたのは2015年7月のことであり、2015年に上げた小説の数は6本、そのうち現在の人気作(閲覧数300以上)は2本ありました。6本書いて最初の年に2本も! 素晴らしいことですね。
翌年2016年に上げた小説は10本。人気作はそのうち5本です。初投稿から約一年が経過したこの年には、上げた小説のなんと半数が閲覧数300を越えています! すごい!
その翌年2017年に上げた小説は4本。本数は少なくなりましたが、これは連載形式の作品を除いた数字であり、ぼくが連載形式での執筆に初めて手を出したのもこの2017年でした。上げた4本のうち人気作は1本ありました。最初の年が6本中の2本から始まったことを思えば、悪くない打率だと思います。
その翌年2018年に上げた小説は連載形式を除いてなんと0本。連載形式を数に入れても3本しか上げておらず、またそれらの全てが未完のまま、企画が(ぼくの中で)永久凍結しています。完全に不作の年です。
不作を抜けての2019年に上げた小説は連載形式を除いて3本。人気作は1本でした。また、連載形式を数に入れれば上げた作品の総数は5本でしたが、それら2つの連載も未完で凍結しています。人気作を出したとはいえ微妙な年ですね。
そして現在の2020年12月7日現在、2020年に上げた小説の数は連載形式を除いて11本。過去最多です。そしてそのうちの人気作は4本です。ちなみに連載形式まで数に入れると作品総数は16本になり、5本の連載のうち1本を除いて無事に完結しています。めでたい!
さて、ではここで2020年を除き本数が最も多かった「2016年に上げた10本のうちの人気作5本」と、2020年に上げた11本のうちの人気作4本のタイトルを具体的に挙げて、比較してみましょう。
☆2016年作品(古い順)
・マッチ折りの少女
・体も心も痛まない
・深夜十二時の鐘が鳴る頃、シンデレラたちはすやすやと眠っている
・空を飛ばない青い鳥
・縛られる視線
☆2020年作品(古い順)
・恩返しの鳥類
・もったいない闇医者
・セックスしないと出られない部屋
・勇者はオナニーがしづらい
……おや? 2020年は4本のうち1本が元ネタのあるタイトル(あらすじ)で、2本が下ネタですね。「奇抜でもなく元ネタもないタイトル」は1本だけです。一方でそれは2016年作品には3本もあります。2020年の方が総数は1本多く上げているのに、人気作の数では1本劣り、奇抜さと元ネタに頼らない作品では2本負けていました。
これについて語るには、三ヶ月ほど記憶を遡る必要があります。
……実を言うと、ぼくは「セックスしないと出られない部屋」を書いた時点で、すでに今回話したような傾向に気付いていました。だって2020年になってまた昔みたいにたくさん短編小説を書くようになったのに、その半数が不人気なんですよ? 特別力を入れた作品だろうとそうでなかろうと、データ的にそういう数値が出てきたら、なぜそうなってしまうのだろうと普通考えるじゃないですか。
特に2020年初っ端の短編だった「恩返しの鳥類」は異常です。短編で当時唯一の閲覧数四桁、5000超えですよ5000超え。どうして去年まで閲覧数三桁は確保していたのに、今年のスタートダッシュは(推薦のおかげで)異常な出来の良さだったのに、その後不人気作が六つも出てくる事態になってしまったというのでしょう? おかしくないですか。
だからぼくはその原因を調べ、「元ネタありが強い」と気付き、そして自分の書いた18禁小説2本(その内1本は未完凍結の連載)がそれなりの閲覧数を稼いでいたことを鑑みて、一部の界隈で常識と化している概念「セックスしないと出られない部屋」というタイトルで小説を書きました。実験のために、あらすじに「救えない」という不穏なキーワードも入れておきました。
それで得られた閲覧数は1087! 短編作品で二回目の四桁です。けれどもその作品の評価は、以下のようになりました。
・閲覧数1087件
・お気に入り9件
・十点満点の評価……7点が1票、6点が1票、5点が1票
・感想0件
それに対して「恩返しの鳥類」と「もったいない闇医者」の評価はそれぞれ以下の通りです。
☆恩返しの鳥類
・閲覧数5602件
・お気に入り204件
・十点満点の評価……9点が56票 8点が19票 7点が7票 6点が3票 5点が1票
・感想13件
☆もったいない闇医者
・閲覧数392件
・お気に入り3件
・十点満点の評価……9点が2票 7点が1票
・感想3件
……はい、明らかにセックスしないと(以下略)は嫌われていますね。閲覧数400に満たない闇医者に比べてお気に入りの数が特別多いわけではなく、闇医者に感想が3件あることに対してセックスしないと(以下略)は0件、読者の付けられる十点満点の評価は低い点数を付けられています。どう見ても、仮にこの作品を今よりも五倍多い数の人に見てもらったとしても、鳥類の恩返しのような素晴らしい結果にはならないでしょう。
しかしぼくには、この作品が閲覧数ばかり優れていて実のところ評価の伴っていない物となった理由がよく分かるのです。……その理由とは「セックスしないと出られない部屋」というタイトルなのに、セックスシーンは全カットだったことでしょう。しかもこの際ネタバレしちゃいますけど、その話はバッドエンドなんですよ。
18禁タグが付いてない時点でエロ描写なんか高が知れていることくらいは分かると思うのですが、それにしても「セックスしないと出られない部屋(概念)」系列の作品を読みたがる人というのは、エロさやエモさを求めて読み始めると相場が決まっていることでしょう。ぼくだってその気持ちはよく分かります。けれど、だからこそその需要に唾を吐くような物語を書いたのです。
するとそれが閲覧数四桁! 低評価! こんな結果を見せられたら、書いた側としてはこう思うしかないじゃないですか。
「あぁ、大抵の人はタイトルや何となくの響きを見ることで読む気を起こして、自分の期待した物と違う内容があると「つまらない」と評価するのだなぁ。そして彼らの「期待」は「救えない」という不穏なワードがバッドエンドに繋がることを許さなかったのだなぁ……。……みんな、手軽でありきたりな物が好きなんだ」
そんな風に、ぼくは悟りました。そして「勇者はオナニーがしづらい」を投稿してみると、またそれなりの閲覧数を得られたわけです。今度は評価の方も閲覧数500未満に対してお気に入りが2件、十点満点の評価8点が2票とそれなりに良い物となりました。あらすじにある「愉快な」というキーワードにある程度忠実な内容だったので、みんな満足してくれたのでしょうか?
しかしそうした「ある程度予測できた人気(または不人気)」の影で、6本の閲覧数的不人気作品が生まれているわけです。その中でも例えば「ロスト・ガーディアンスライム」は、あらすじにもあるように「異能力を持った童貞」が活躍する話になっているのですが……。……ぼくはこれを「童貞守ってたらチート能力に目覚めた件」みたいなタイトルで発表するべきだったんでしょうか? そうすれば少なくとも閲覧数は三桁に届いていたのでしょうか……?
しかし仮にそうだったとしても、はっきり言って、クソくらえなんですよね、そういうの。大っ嫌い、馬鹿じゃねぇのと思います。
不人気作品の内容を見てもらえば分かってもらえることなのですが、ぼくはそれで寄って来る人たちに向けて小説を書いてるわけじゃないんですよね。巷で噂のソードアートオンラインがアニメ化したから「どんなに面白いんだろう!」とわくわくしながら見たら、今まで見た全ての深夜アニメの中でワースト1位なんじゃないかってくらいクソつまらなかった時から、ぼくはライトノベル的な小説が大嫌いです。もちろんライトノベルの中にだって面白い作品はありますけど……それらの数に対して内容のしょうもない物が多すぎます。
けれども読者の多くはその「しょうもない内容」を求めている。四年前にはいたはずの、ライトノベル的ではないぼくの作品を読んでくれていた大勢の読者たちは、いったいどこへ行ってしまったのか……? と、ぼくは昔が恋しくなります。けれども、考えてみれば「四年」の月日が流れていたのです。四年もですよ。小学校卒業を間近にしていたガキんちょが、高校受験を終えるくらいの月日ですよ。大学生活の丸々全てを含むくらいの月日ですよ。
昔の作品を読み返してみると、ぼくの文体が、四年で激変しているんですよね。だから「どうして四年前はライトノベル的ではない作品でも読んでくれる人がいたのだろう……」という問いの答えは一つ、「ぼくの文体が四年前はラノベっぽかったから」だと推測できます。あらすじの件にもその傾向があったように、「素人が投稿サイトに上げた小説」を読む人たちというのは、そういう層の人たちは、小難しい文章を嫌う場合が多いんじゃないでしょうか。内容がラノベっぽくない、文体もラノベっぽくない、……じゃあ読まない! ってことです。
ぼくの激変っぷりは「死神JKデイズちゃん」「魔法少女デビューはメルヘンにあらず」という数年前の二作品と「死神JKデイズちゃん(リメイク!)」という作品を読み比べてもらうと分かると思います。あるいは一番初めに投稿した作品「機械的な日々」と、2020年に投稿した作品のいずれかを読み比べてみてもらっても大丈夫です。まったくの別物であることが分かります。デイズちゃんリメイク版の方が未完凍結の連載作品なので、URLは貼りませんが。
ともかくそういうわけで、昔のぼくは死んで、もういません。そしてそろそろ話をまとめに入ろうと思います。
2015年に小説投稿を開始して5年経ち2020年となった今、ぼくと小説投稿サイトの読者層は、いつの間にか嫌い合う関係になっていました。ぼくは「セックスしないと出られない部屋」だって「作品としてつまらない物」を書いた気など毛頭ありません。タイトルに釣られて寄ってきて、あらすじに一応ヒントを出しておいたような、理不尽ではないはずのバッドエンドな内容に「つまんね」という判断を下した読者たちのことが嫌いです。彼らを目がけてマーケティング的に正しいタイトルを付けるなんて御免ですよ。
しかしそれならそれで、じゃあどの層へ向けて小説を書いているの? と言われると、ぼくはそれに答えられません。なぜなら小説執筆は完全な趣味であり、仕事にしようとか誰かと競い合おうとか、そういった感覚はまったくないからです。
その一方で、ぼくが嫌っているタイプ以外の、ライトノベル的ではない読者の大多数が普段どこにいるのかというと、それは小説投稿サイトなんかではなく、本屋や図書館や電子書籍購読ページなんですよね。良い物が読みたければプロの書いた物を読めばいいというのは当然の発想でしょう。ぼくもそうしています。素人作品の中から読む価値がある物を探すくらいなら、そんな砂漠に落とした真珠を探すような真似をするくらいなら、素直にプロの書いた本を買いますよ。
だからこの宙ぶらりんな、プロ並みの努力は絶対御免だけどライト層は大嫌いだ……という思想に染まってしまったような、そんなぼくの書く小説の「読者」は、ほとんど「ぼく本人」しかいないことになってしまうのです。というか、すでにそうなっています。不人気作の急増がそれを表しています。
けれどそれでいいんだと思います。こうやって自分の統計じみたデータを漁ってみたり、各作品を書いた時のぼくがどんな人間だったかに想いを馳せたり、文体の変化に時の流れを感じたり、それで自分のことをより深く知ったり……。と、それでいいんですよ。
趣味でやっていることなのに、何が悲しくて、嫌いな人たちに向かって「どうか読んでください」と媚びなきゃいけないのか、ぼくには分かりません。間違いなく面白いから読め! ぼくから言えることはそれだけです。
……いつか虎になりそうだって思った人が、どこかにいることかと思います。
ここまで読んでくれるような人がいるのか甚だ怪しく思いますが、最後にこの作文のオチを書いておくことにします。まだ今回のタイトルの意味を明かしていませんからね。
ぼくは昔、ゲスの極み乙女というバンドの曲が好きでした。しかしボーカルの川谷絵音(かわたに・えのん)とベッキーの例の騒動によって、ぼくはそのバンドの曲を素直な気持ちで聴けなくなり、やがて興味を失っていってしまいました。だって騒動の最中に出た曲のタイトルが「両成敗でいいじゃない」ですよ。サビが来るたびに例の騒動が脳裏をよぎって気が散るじゃないですか。
が、そんなぼくが何かの機会か偶然かによって、久しぶりにゲスの極み乙女の曲を聴くことがありました。それもぼくが興味を失った以降の時代に生まれた曲です。それは「影ソング」というタイトルの曲で、サビの歌詞はこうでした。
「日々のうのう What you know? 何も知らないくせに出しゃばって
日々のうのう Oh what you want? 本当に品がないな君たちは」
……ぼくは、これは才能だと思います。
川谷絵音はいつか言っていましたよね。自分が悪いことをしたのは分かっているが、部外者である一般の人たちは何故こんなにぐちゃぐちゃと口出ししてくるんだ? みたいなことを。その気持ちをこんな歌詞にして歌に乗せることが出来るのは、創作者として抜群の才能だと思います。まぁその才能のせいでぼくは再び「あ、ぼくはやっぱりもうダメだ、このバンド」と判断したわけですが。ぼくはとにかく、歌を聴いている時は気を散らせたくないんです。
で、まぁそれはそれとして、川谷絵音の言い分には一理ありますよね。部外者が口出しするなという点ではなくて、「口出ししている人のいったい何割程度が、そんなに立派に生きているんだろう?」という意味で。キリストだって「石を投げていいのは一度も罪を犯したことがない人だけ」とか、そんな感じのことを言っていたじゃないですか。その点では一理あるんですよ。
だから彼が本当にまずかったのは、それを「客」である「一般の人」に言ってしまったことなんだと思います。彼本人でもなくバンドメンバーやベッキーや彼に苦しめられた女性でもなく、まったく無関係のコメンテーターが同じことを言っていれば、賛同されるとまではいかなくとも「一理ある」とは思われていたはずです。
川谷絵音はそういう意味で、名前が売れすぎていました。「一般の人」という言葉がそのまま自分の客層を指してしまうような大人気の獲得は、ハイリスク・ハイリターンなんですよ。
一方ぼくみたいな有象無象の一人が、こんなインターネットの片隅で、自分の客層であるだろう人たちに「大っ嫌い。馬鹿じゃねぇの」と言ってしまったところで、川谷絵音と同じようにはなりません。なぜなら誰も見てないからです。閲覧数で言えば二桁だからです。
だからぼくはずっとこのまま、誰にも気付かれないような場所で、好き勝手なことを書き続けていきたいと思っています。小説を書くにしても、それ以外の物を書くにしても、それは変わりません。
「リスクは低く、絵音にはならない」
はい、タイトル回収!
……恩返しの鳥類に「お手本のような起承転結」とお褒めの感想をくれた読者のことは大好きです。