「ゆるい、ぶらっどぼーん」解説

 今回の作文の内容は、ぼくの書いた二次創作小説の解説です。当然ながら全人類が「ゆるい、ぶらっどぼーん」を読んだ前提で話すので、まだ読んでない人は以下のURLからどうぞ。
 ブラッドボーン既プレイの人なら読んで損はさせないはずです。全十万文字と中々長いけど頑張って。

https://syosetu.org/novel/233666/






















 さて、ここからは上記URL作品および、PS4ゲームソフト「ブラッドボーン」のネタバレを含みます。ブラッドボーンは、アクションゲームが苦手でないなら遊ばないことは人生の損失と言えるゲームなので、これから先のネタバレには十分注意してください。





 ブラッドボーンの二次創作……それも本編の内容を一味変えてなぞるような内容を書こうと思い立った時に、真っ先に決めたのは「寄り道の削除」でした。
 ブラボは自由度の高めな作品でして、クリアに必須な最短ルートと、クリア自体には必要ないがいろいろと用事はある寄り道が存在しています。特にそれは仕事ではなくゲーム、つまり遊びですから、寄り道を楽しむ気概くらいは持ち合わせていてなんぼです。
 が、その寄り道を二次創作の中では「初めから存在しない物」として扱う。そう決めた理由は、聖杯ダンジョンという面倒な機能のせいです。
 主人公は聖杯というアイテムを用いることで、特殊な地下迷宮……つまり寄り道を探索することが出来ます。そこには、ゲーム攻略を力強くサポートするアイテムの数々や、最短ルートでは出会えないボスの面々など、ゲームとして楽しい要素に満ち満ちているのですが……。
 聖杯ダンジョンは、規模が大きすぎて、もはやそれだけで一つのストーリーになっているのです。ボスの種類だけを数えれば、最短ルートに登場する者たちと大差ありません。聖杯ダンジョンを書こうとすると、小説の長さは倍化します。しかしその分面白くなるのかというと……しょせんは寄り道ですからね。本編以上の物は保証出来ません。
 さほど面白いわけでもない話を、本筋と同じくらい長く続ける。人気漫画の引き伸ばしでもあるまいし、そんなことをする理由はありません。なのでまずは、聖杯ダンジョンを全てカットすることが方針として決まっていました。
 すると、寄り道のいくつかは聖杯を手に入れるための物になっているので、自然とそれもカットされていくことになります。そうこうするうちに「いっそ最短ルートに限った方が話が早いのでは?」という考えに至って、あらゆる寄り道はほぼ全てカットされたのです。
 寄り道にはいわゆるマップの他に、NPCやそれに連なるイベント、二次創作的に想定したストーリーに必要ないアイテムなど、あらゆる物を含みました。
 その末に始まりから終わりまでの文字数が十万に達したことを思うと、カットの判断は英断だったと言えるでしょう。
 そうしてカットされた中に、「捨てられた古工房」というマップがありました。ゲームではそこにボスはおらず、敵もおらず、ただアイテムを回収するための場所になっている狭いエリアです。
 しかし捨てられた古工房には、ストーリーとしてとても大きな意味が込められています。というのも、そこは二次創作の中にも登場した「狩人の夢」とそっくりな景色なのです。夢の中とまったく同じ景色が、現実にも存在する。プレイヤーはそのことに驚かされます。
 捨てられた古工房は、言われなければ行き方にさえ気付けないような隠し要素的エリアであり、拾えるアイテムも「ストーリー的な価値」が重視されている場所です。例えば、夢の中にいた「人形」とそっくりの人形が、古工房には捨て置かれています。
しかしその人形は夢の中と違い動きません。
 ……が、よく観察してみると、指が一本ぴくりと動く時があります。アクションゲームをやりながら、背景として存在する人形の指が動いていることに気付くほど念入りな観察を行う人は稀でしょう。ぼくもネットの情報で知り、実際にその指の動く様を確認しただけです。そしてそれらのことはご存知の通り二次創作に活かされました。
 古工房で拾えるアイテムは大きく分けて三つ、「古い狩人の遺骨」「小さな髪飾り」「人形の服」です。人形の服については、単に帽子・服・手袋・スカートとマネキンコーデが如く全身が手に入り、またゲーム中それを装備することも出来ます。その他に「3本目のへその緒」というストーリー的にもゲーム性的にも非常に重要なアイテムが拾えますが、それについては「寄り道」としてカットしています。
 古工房のアイテムのうち、小さな髪飾りは、ゲーム中で人形に渡すことが出来る特殊なアイテムです。そしてそれを渡した際のセリフは、形を変えて二次創作に活かされました。
 そして最も重要なことに、人形の服シリーズには全て共通して、ゲーム中で以下の解説文が用意されています。

「打ち捨てられた人形用の服(帽子・手袋・スカート)
 着せ替え用のスペアであるようだ

 ごく丁寧に作られ、手入れされていたであろうそれは
 かつての持ち主の、人形への愛情を感じさせるものである

 それは偏執に似て、故にこれは、わずかに温かい」

 ……さて、まずゲーム本編のストーリーでは……つまり本来の公式ストーリーでは、捨てられた古工房とは、かつてゲールマンの居た場所とされています。
 というのも、DLCコンテンツとして配信された「the old hunter」という外伝にて、マリアという名の人形にそっくりな女性が、ゲールマンの熱心な弟子であったことが語られたからです。
 古工房にはマリアそっくりの人形があり、狩人の夢には主人公よりも先にゲールマンがいて、景色は古工房にそっくりな上、夢の中だからか動いて喋る人形もいる。普通に考えて、狩人の夢そのものが、ゲールマンの意識や記憶から作られた物と考えるべきでしょう。
 だから公式本編では、ゲールマンがマリアに師弟関係以上の想いを抱いていたことが匂わせられています。偏執ですからね。人形を作って、服を作ってよく手入れして、それを自分でも着てしまうようなほど熱烈な。変態というのは、時として意外なところに潜んでいるものです。
 ……が、それが二次創作で大きく変わることになりました。その変化は全くの偶然で起こったことです。すでに言った通り「寄り道のカット」は冗長さの回避のため、ただそれだけのために決められたことだったのですが、別の意味が生まれたことに気付いたのは、二次創作を書き終えたあとのことでした。
 二次創作において、主人公の狩人さんは、最愛の人である人形さんを夢から連れ出すことに成功します。しかし、悪夢の中を抜け出して人形さんとの平和な生活を望んだ彼に突きつけられたものは、「現実では、人形は命なき無機物である」という事実でした。
 それでも彼は人形さんと一緒に暮らしていくことを選び、その覚悟を決めて、ぴくりと動いたような気がした彼女の手を握りどこかへと去っていくわけですが……そこでですよ。
 その狩人さんなら、やりそうじゃないですか。人形さんの服のスペアを作り、よく手入れして、その上自分でも着てしまうような、ちょっとおかしな人になりそうじゃないですか。
 人形さんとの幸せな生活を夢見て狩りを全うした狩人さんが、最後に現実を突きつけられて、それでも諦めなかったなら、まさにそんな狂人になっていて当然でしょう。
 そしてそんな狂人なら、人形さんとお喋りが出来ていた過去に焦がれて、「狩人の夢」とそっくりな景色を作りだして、そこに住み着いていたって不思議ではありません。公式本来のストーリーと、構図が完全に逆転するのです。二次創作の中で古工房を寄り道として削除したことで、それは原作を知る者にのみ伝わる「後日談」の仄めかしに変わりました。
 さらに、偶然の一致はまだ終わりません。DLCコンテンツのタイトルは「the old hunter」……それは過去の世界に旅立ち、例えばゲールマンの過去やマリアの存在を知るような物語なのですが、二次創作の世界線においては別の意味も持つことになります。
 old hunter……古い狩人……つまり過去作主人公です。新主人公が前作主人公の作った工房へと足を踏み入れ、人形への偏執を知り、そしてひょんなことから過去へ旅立ってしまう。そこにはきっと、十万文字の冒険を超えて変態と化した、我らが狩人さんも同行することでしょう。彼は過去の世界で、人形さんそっくりのマリアという女性が動き喋り生きていることを目にして、いったい何を思うのか。
 原作をなぞったオリジナルストーリーとして、こんなに綺麗にピースが組み合わさることがありますか。まさに偶然を超えた奇跡です。惜しむらくは、ぼくが金をケチってDLCを自分の手でプレイしていないのに、ネタバレだけは死ぬほど見てしまったせいで、今のところゆるいぶらっどぼーんの続編はあり得ないということですが……。
 それでもこの奇跡の合致を、ひょっとすると誰にも気付かれることのないまま眠らせてしまうことだけは避けたかった。なので今回この作文を書きました。蛇足だったかもしれませんが、これを小説の一部として本編に載せなかっただけ、立派に分別をつけたとして許してください。