「oneフォルダsevenシンズ」の解説

 面白い小説があるので読んでください。これです。ぼくが書きました。

 

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 今回の作文は上に載せた作品のネタバレをごりごりにやっていくので、先に小説本編の方を読んでくることをおすすめします。

 けれど、どうしても、どうしても、ネタバレを見てからでなければ本編を読む気力が起きなさそうだ……という人は、その気持ちに従うことも有りだとは思います。おすすめは出来ませんが。

 ともかく、一つ確実に言えることがあります。上記の小説本編をまだ未読の人は、それを読んでおいた方が、そこまで見たいわけでもないyoutubeの関連動画を見漁るよりかは、よほど有意義な時間が過ごせるだろうということです。

 以下、ネタバレ解説になります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・冒頭の一文について。

……本編の冒頭にある、「少年の日の思い出」に登場するエーミールの有名な台詞を題材にした文章。あれはどういう意味で冒頭に置かれた物なのか、というかそもそもあれは誰の言葉なのか、諸々の説明をテンポ的に作品内に取り入れることが出来なかったので、ここで説明しておきます。

 まず冒頭のあれは、夏樹の思考を文章化した物です。それもその思考は大学生の夏樹だけの物ではなく、中学当時の夏樹から続いている物だと思われます。

 エーミールは馬鹿だったんじゃないか? という旨のあの文章は、要するに「人間のクズの思考」の一例です。責任転嫁、罪悪感や共感性の欠如、そういった物を表す文章を、冒頭に置いておきました。本編後半で明かされる「殺したいほど俺のことが嫌いなら、俺と別れればよかったのにな」という夏樹の台詞も似たような意味合いを持っていますね。

 ただ、それと同時に、本作の主人公に当たる千柚は「人を見る目」のない人物であり、それが原因の一つとなって悲劇を被るので、冒頭文には夏樹の思考そのままの「人を見る目のない人間は馬鹿だ」という意味も含まれています。

 エーミールは馬鹿だし、それを指摘する人間もクズでしかない……、そんな救いのない「全員悪人」といった形の物語が、以降の本編で展開されていくことになります。作者としてはそれを初めから知っていたので、物語の方針を示す文章として、これを冒頭に置いておきました。

 また、話をややこしくする最大の要因として、「見る目のない人」が千柚であるなら、冒頭の文章に例えて言うと「千柚=エーミール」という構図になりそうに思えることがありますが、これはそうではありません。そのような構図はありません。

 そのような構図がないのだから、千柚が複数の人物から「あー、君はそういうやつか」という意味合いの言葉を受けることには、何の矛盾もありません。冒頭の文章はあくまでも、

「人間のクズの思考」

「人を見る目がないことの罪」

「物語の方針」

 の三つを示す物であり、それ以上の物ではないのです。

 だから本編内で千柚がかけられる「少年の日の思い出」のような台詞は、その言葉をかけられる側ではなく、むしろその言葉を「かける側」に注目してほしかったのですが、書き終えてから自分で読み返してみると、それはちょっと無理があるように感じました。これはちょっと何が言いたいのか分からないように見えるなぁ、と。

 本当に言いたかったことは、「人を見る目がない者」を見下しているやつだって、エーミールのような台詞を吐くことになるのだ、ということです。エーミールは馬鹿なのではないか? と考えたはずの夏樹自身が、千柚に「お前はそういうやつなんだな」と言うことに意味があるのです。

 少なくともこの作品の中には、聡明で真っ当で落ち度のない人間なんて、一人もいないこと。「少年の日の思い出」のような台詞を用いたことには、そういった意味を込めました。



・タイトルの意味。

……「oneフォルダsevenシンズ」というタイトルの意味も、作中で解説する暇はなく、また自然に伝わってくれるとも思えない出来になってしまったので、ここで説明しておくことにします。

 七という数字を聞いて、本編を読んだ人が真っ先に想像するのは、七体の泥人形A~Gのことになるかと思います。もちろんそれらを「夏樹の欲から生まれた泥人形」という「一つの括り(フォルダ)」に属する、「七つの罪深い存在(シンズ)」と捉えることも間違いではありません。というかそれは正解です。……ただ、正解は二つあります。

 泥人形という「人工的(魔女工的)に作られた物」を除いた、「純粋な人格」だけを作中から抜き出すと、ちょうど七つになるのです。それを指して「「この小説」という一つの括り」の中にある「七人の罪深い存在」という意味で、oneフォルダsevenシンズというタイトルを付けました。

 千柚、夏樹、生前の設楽功、イノベトラル、コハク、見張りの男、ヒヤナギ。この七人は全員悪人である。そういった意味を込めて付けたタイトルです。これは本編冒頭のエーミール云々の話とも共通した意味合いですね。

 ただ、ぶっちゃけた話、執筆終盤になって「七人いる!」ということに偶然気が付き、急遽このタイトルを付けたので、意味が伝わらなかったとしても仕方がないことだとは思います。作者自身でさえ途中まで気付けなかったことを、読者に気付けというのは無茶ぶりすぎるかなぁと。だからここで説明するようなことになってしまいました。

 ちなみに正式タイトルが決まる前の執筆中の仮題は、そのまま「七人いる!」でした。ハンターハンター経由で「11人いる!」というタイトルの漫画があるらしいことを知ったので、夏樹が従える女性(泥人形)の数を指してパロディ的なタイトルを付けようとしていました。

 11人いる! の内容をぼくは全く知らないのですが、一人の男に彼女が七人もいればそりゃあ「!」くらい付けたくなるだろうと思い、それはそれで良いタイトルだと考えていました。

 ところで一説によると、異性との付き合いについて、女性は「上書き保存」的に、男性は「名前を付けて保存」的に記憶するそうです。括りという意味で使った「フォルダ」という言葉はそこになぞらえています。



・各キャラクター名の由来。

……これもせっかくなので説明しておこうと思います。

 千柚は「か弱そうな女性名」を連想して付けた名前であり、それ以上の意味はありません。彼女にはなんとなく弱そうなイメージを付けておかないと、なあなあで夏樹と友人関係を続けているという背景に合わない気がしたのです(強い人ならとっくに夏樹のことなんかしばいてると思う)。

 非常に差別的なことですが、最近執筆した小説に登場する人間にはそういった「印象」で名前を与えています。しかしまぁ文字だけの表現という、ある種インターネット的(古風に言えば文通的)な形態を用いている限り、漠然とした印象という物は、すごく重要な物であるように個人的には感じています。

 夏樹も「明るくて元気そうで爽やか」という印象だけで名付けました。生粋のイケメン系クズである彼ですが、陰湿さや悲痛さからは遠い存在にしたかったので、それらとは縁遠そうな印象の名前にしました。要するに単純なクズにしたかったのです。「大樹」等になると体育会系感が強まってきてしまうので夏樹、という感じです。

 設楽功は、これは「功」という名前から感じるサバサバした男性の印象を頼りにした一方、苗字に関しては何の意味もなく適当に付けました。記憶に残りやすいそこそこ珍しい苗字、かつ珍しすぎない苗字を必要とした時、設楽という苗字が思い浮かんだのです。無論それは、バナナマンの片割れの顔をしていました。

 魔女イノベトラルの由来は「ライトノベル」のアナグラムです。彼女の魔法は作中において「ハーレムを作る魔法」とも言い換えられますが、ハーレムといえばなろう系小説、なろう系小説といえばライトノベルでしょう。だから「ライトノベル」の文字を入れ替えて「イノベトラル」です。この名前を思いついた時、ぼくはぼくのことを天才だと思いました。

 魔女コハクの由来は「紅白」と「旗揚げゲーム」です。「人の言いなり」という彼女の性格を旗揚げゲームに例えて、旗揚げゲームといえば赤と白だろうということで、紅白(コウハク)を縮めてコハクと名付けました。魔女の名前というのはこのように、必ずしょうもない理由を持っているものです。

 魔女ヒヤナギの由来は「柳」と「幽霊の正体見たり枯れ尾花」です。幽霊と柳には何かと関連性がありますが、登場時すでに死亡している彼女には「彼女は本当に幽霊です」という意味で「正体は枯れ尾花ではない→非枯尾花」という名前を付けようと思いました。しかしそれではどうにも形になりそうにないので、植物繋がりということで柳を引っ張ってきて「非柳」です。

 ちなみにそれぞれの魔女の名前の発音ですが、イノベトラルは違法賭博、コハクは琥珀、ヒヤナギは茨城と同じ発音です。



・ヒヤナギの性格について。

……魔女はみんな頭がおかしい。作中で挙げた通り、それは揺るがぬ事実です。しかしそれにしても、ヒヤナギだけはさすがにちょっとおかしすぎないか? という疑問が、本編を読み返した自分の中に芽生えたので、ヒヤナギという魔女についてのことをここで説明しておこうと思います。

 イノベトラルは「盲目的に彼氏を好く女」の誇張です。コハクは「まわりに流されることしか出来ない人間」の誇張です。ではヒヤナギは何の誇張なのか? 彼女は「好きな人が自分のいないところで何をしているのか、気になって仕方がない人」の誇張です。

 自分のいないところ、つまり、自分が死んだ後の世界で、生前好意を向けた男が何をしているのか。それを実際に確認することが彼女の生き甲斐なのです。しかし魔女らしく頭のおかしい彼女は、「確認した物」が何であろうと必ず満足します。

 と、その一部を切り抜いた風景が本編での描写だったわけですが、この説明無しでは、一番意味の分からないままぶっ飛んでいるキャラクターになっていたことかと思います。なのでどうぞ、ここで納得していってください。



 以上で、大体の解説を終えました。これよりも細かい解説を今後ツイッター上で行う可能性について、ゼロとは言いきれないので良ければフォローしておいてください。

 フォローすれば、単なるオタクのツイートと、「あぁ、あの小説を書いた人って本当にやばい人なんだ」ということが察せられるツイートが見られるようになると思います。面白いのでおすすめです。


ツイッター……@kinukawa1221


 それではこの作文は、次こそはもっと単体で面白い作文を書けるように……と祈りつつ、ここで終わることにします。

 2021年に続く!