金がないなら自作すごろくでも作って遊んでろ

 みなさん子どもの頃に自作すごろくの作成を試みたことはありますか? ありますよね、ぼくはあります。学校行かずに作ってたり、みんなが授業してる時に保健室なんかで作ってた気がします。

 しかし、すごろくを作るだけならまだしも、面白いすごろくを作るというのは至難のワザマエです。それを子どもの頃に身をもって知りました。要するに、つまらないすごろくをいくつか作ったわけですね。

 例を出しましょう。

 

・パターン1 普通のすごろく

 サイコロと紙と駒でやる普通のすごろくです。出目の分だけマスを進んで、止まった先に書いてある内容に従ってゲームを進めます。もちろん最初にゴールにたどり着いた人の勝ちです。

 このタイプのすごろくの何がダメなのかというと、まず一度遊ぶと飽きてしまうことですね。ただ単調にサイコロを振るだけのゲームなんか子供騙しじゃん……という部分に目を瞑ったとしても、そもそも飽きやすいことが大問題です。

 一本道のすごろくは一度遊べば大体の内容を覚えてしまいます。それはもう「あの「3マス進む」のマスに止まって進んだ先では、次の番に5を出すと「2マス戻る」のマスに当たるから、あのマスに止まると次の番は実質5も3みたいなものだぞ」みたいなことまで覚えちゃいます。これがつまらないんですよね。

 元々が単調なので、パターンを覚えちゃうと以降はもうほとんど、すでに見飽きた番組の録画を見るみたいな感覚に陥ってしまいます。紙に手書きでマスを書いて苦労する割に、1~2回遊んで飽きてしまうのでは割に合いません。

 しかも途中で書いた通り、割と子供騙しのすごろくなので、自慢げに人に「すごろく作ったんだぜ!」と報告することもできません。そんなすごろくに労力を費やすくらいなら、トランプで神経衰弱でもしておいた方が有意義です。

 

・パターン2 お金などの、勝敗を決する「得点」が登場するすごろく

 人生ゲーム、いただきストリート桃太郎電鉄、あとぼくはやったことないけどモノポリー。お金を一番多く稼いだ人が優勝、というすごろく系ゲームは数多くあります。数多くある事実それ自体からも、そして実際に自分が遊んだ経験からも、その手のゲームは面白いことがわかります。

 じゃあ自分で作っちゃえ。と、そんな軽いノリで作れれば苦労はしません。ぼくも一度試みてあっけなく諦めました。

 まず、ゲーム内でお金を用いるからには、それを管理する媒体が必要になります。玩具のお金だとか、数字を表示しておいてくれる物……電卓とかですかね。一家に電卓って何台ありますか? 遊ぶ人数分用意できますか? まぁ当時はともかく、今はスマホで代用もできますけど、それにしたって厳しいです。

 玩具のお金の自作&量産は非現実的なので、全員の所持金を表す電卓(スマホ)を用意することになります。遊び相手に道具の用意を強制するあたりゲームとしての欠陥が物陰からこちらを覗いている気もしますが、それを見て見ぬフリしても問題はまだあります。

 問題その2は、ゲームバランスです。お金を稼ぐすごろくが面白いのは、ちゃんとゲームとして成り立ったバランスが設定されているからです。極端な話をするなら、バラエティでお約束の「この問題に正解した人には100万点!」みたいな展開をゲームでやると、全然面白くないクソゲーになるわけです。

 バラエティ番組はその場のノリですけど、ゲームは何度も遊びますからね。毎週お約束の展開やってる番組なんて見たことないでしょう? なので、そこまで極端ではなくても、ゲームバランスには気を遣わなければなりません。

 で、気を遣うって、どうやって? ノウハウなんか1ミリも持ってない知らない状態ですし、適当に作って遊びながら調整していく? すごろくを一人で何度も? 手書きの場合は書き直す労力もそれなり大きいのでは? そもそも、いたストや桃鉄みたいに複雑なお店なり物件なりのシステムをアナログで再現するのはさすがに非現実的です。

 最終的に、ぼくはお金稼ぎ系のすごろくの作成を諦めました。だって、仮にものすごい苦労をして完璧に近いゲームを作れたとしても、スーパーのオモチャコーナーでいくらか出せば「人生ゲーム」という自分の作ったゲームによく似た、それもほぼ完全上位互換のゲームが買えてしまうんですよ? 自作すごろくを完成まで漕ぎ着けるだけの労力の価値をお金に換算すると、その人生ゲームが買える金額以下になるのでしょうか?

 ああ、そうさ! と笑顔で言える人は、さっさとバイトなりなんなりで働きに出た方がたくさんの面白いゲームが買えると思います。そっちの方が効率的です。

 

パターン3 戦闘があるすごろく

 ダークソウルというアクションRPGゲームがありまして、中学生のぼくはそれにハマっていました。そしてある日「ダクソをすごろくに出来るのでは!?」と思い立ったわけです。

 すごろくの中で敵を倒しつつ進んで、ゴールにたどり着いた人が優勝。と、そんなゲームにする予定だったわけですが、その「敵を倒す」をどうやるのか、つまりすごろく内での戦闘はどうやって行うのか。初めはまぁ当然というか順当にというか、サイコロを振って行う方法を考え付きました。

 自分の攻撃、サイコロを振って判定。相手の攻撃、サイコロを振って判定。これを繰り返して自分が勝てば先へ進める。負けたら数マス戻る。よっしゃ、これ面白いだろ、これでいけるわ。そう確信を得たぼくはすごろくを作ってさっそくテストプレイしてみました。

 一回の戦闘が終わるまでに、何回サイコロを振ったのか。もはや数えたくもないほど多くの回数振ったと思います。ゲームバランスが悪かったですね。サイコロを数回振れば戦闘が終わるような設定にしておかないと、振ってるプレイヤー側に嫌気が差してきます。

 しかし振る回数を減らすとなると「偶数なら勝ちで先に進む、奇数なら負けで数マス戻る」みたいなシンプルな物になってしまうように思えました。ぼくはダークソウルの緊張感ある戦闘などを再現したかったわけですが、これでは「小学校の障害物競争で、最後に先生とジャンケンして勝ってからゴールへ走る」みたいな物になります。いかにもつまらなさそう。

 結局ぼくはここの打開策を思いつくことができないまま、ダークソウルすごろくの制作を諦めてしまったのでした。ただ、あとから考えれば他にも原因はたくさんありました。

 ぼくの今回の目的は、その原因たちを解決して「面白いすごろく」を作ることです。活路は戦闘系すごろくにあると見ました。

 

 

・ダークソウルすごろく作成の際に見えた課題

 課題その1 まず、なにをもってしてゴールとするのか。

 ボスを倒してゴール……というのでは、一つのステージをクリアしたらおしまいということになります。ダークソウルにはいくつものステージがあり、それぞれ強烈な個性のギミックやアイテム、ボスなどが配置されているのです。ここを再現しないなら、ダークソウルすごろくなんて名乗るのやめちまえって感じです。

 ただ実際作るとなると、そもそもゲーム中に登場する全てのステージをすごろくとして攻略しようとした場合、たぶん昼から初めて終わる頃には日が暮れることになります。早い段階で戦闘システムに行き詰まり挫折したので考えていませんでしたが、これは重大な問題、欠陥です。

 TRPGみたいにキャラシートを保存して何回かに分けて遊ぶ……という手もあります。しかし、それは面白いとされるTRPG並みのクオリティですごろくを作れる前提があってのこと。時間がかかるとわかっているゲームのプレイを始めるには「時間はかかるけど、でもこのゲーム面白いぞ」という相当なモチベーションが必要になってきます。素人の手でその条件を満たす物を作るのは、正直言って無理でしょう。

 なんとかすごろくを短くする必要がありそうです。しかし凝縮すればするほど、個々の個性は薄まって、もしくは失われていきます。ぼくはそれが嫌でした。ダークソウルへの愛が重すぎた説が濃厚です。

 

 課題その2 結局、戦闘システムはどうするのか。

 これについても愛が重すぎるせいで難航していた節があります。まずぼくはTRPGほど綿密ではないにせよ、ある程度スタート時に駒とするキャラの性能はそれぞれのプレイヤーで決めておきたいと考えていました。

 筋力タイプ、技量タイプ、魔法タイプ。大体その三つの中から選ぶ形でいいかなと思っていたわけです。そうなってくると、当然戦闘内でのそれぞれの特徴を考える必要が出てきいます。それはまだ、3パターン考えるだけだからたぶん問題なし、良しとしましょう。

 しかし、3タイプのキャラはゲームに忠実にいくならそれぞれ装備する武器が違います。ぼくはそこも再現したかった。あのマップにあるあの武器を取ってからこのキャラは強くなるんだ……みたいな、そういう成長システムというか、そんな感じのやつがほしかった。

 しかしそうなってくると、初めにプレイヤーが自由にキャラを選べる以上、それぞれのキャラに格差が出ないようにするためにそれぞれの武器(それもそれぞれ違った個性があるもの)を配置する必要が出ます。でないと弱いキャラを選ぶ人が出なくなりますからね。

 そうなるとその分マップも広くしないと、みんなが同じような場所へ武器を取りに行く「武器屋さんへレッツゴー」なゲームが始まります。そんなもんダークソウルには無い。しかしマップを広くするとプレイ時間が……。

 というかそもそも考えてみれば、武器を取るってどういうシステムにするんでしょうか。ちょうどそのマスにぴったり止まればゲット? 確率厳しすぎない? 通り過ぎたらゲット? それで一本道だと結局みんな戦闘前に「なんか落ちてた」で手に入れるから、だったら最初から持たせてる設定でやれよって話になってしまう。そして道を分岐させると、それぞれの道に別々のイベントも配置しないと結局意味がないから、上手い具合にやらないと「なんかあのタイプのキャラだけ有利じゃない? みんなあのタイプで遊ぼうぜ」ということになってしまいます。

 あれ……ひょっとしてダークソウルのすごろく化とか無理じゃね……? このあたりでそういう結論がチラチラと見えてきました。

 

課題その3 マップの形はどうする? イベントは?

 初めの頃、ぼくはすごろくのマップをゲームのマップに似せた形で作ろうとしていました。しかし元々方向音痴の人間、ゲーム内での東西南北の感覚はすぐに消え去ります。結局、似せるも何も「形」自体が把握できないということになりました。

 けれども、ただの一本道では芸がないし見た目にダークソウル感がない! はい、また愛が暴走し始めます。マップの形を把握できるようにたくさんゲームで遊ぶんだ、もしくは動画を見るんだ。……とか言ってる間にすごろくのモチベは段々と薄くなり、水が徐々に蒸発するように自然消滅していったのは言うまでもありません。

 そしてマップの形を抜きにしても、まずはイベントです。ダークソウルらしさ、つまりは個性を出すなら形よりもマスに止まった時のイベントの方が大切でしょう。いっそそれが思いつけばマップの形なんてもうどうでもいいかな。2週目世界の四人の公王にボッコボコにされながらぼくはそんな風に路線変更を検討していました。

 で、例えばゲーム内の通り道で矢が飛んでくる場所があったとしましょう。それを再現するとなると、どこかしらのマスに止まった時に「矢が飛んできてダメージを受けた!」みたいなイベントが起こるわけです。つまり、戦闘以外の場面でも「HP」の概念が出てくるわけです。

 当然、道中で削られたHPでそのままボスとの戦闘に突入することにならなければ、道中のHP増減イベントに価値がなくなります。となると、常にキャラのHPをカウントしておかなければなりません。

 ……どうやって? カウントだけで言えば減る一方なら楽ちんで、紙に書く程度でもいけるでしょうけど、それだとさすがにゲームバランスの問題もあります。何よりゲーム内には回復アイテムも登場するので、それを採用しないわけにはいきません。

 しかし増減するHPを紙に手書きでカウントするのはちょっと厳しい、というか面倒くさい。手ごろな物体(おはじきとか)をカウンターとして使えれば「一個につき1ダメージ受けてる状態ですよ」という風に出来るのですけど、そんな手ごろな物体そうそう都合よく身の回りにありませんよね。道具の用意に手間がかかるのはいただけません。

 かといってダメージ系のイベントを外すことも演出上難しい。一本道のマップでさえ上手く作れないとなってくると、マジで無理っぽいように思えてきます。そもそも戦闘だって「実質ジャンケン」のルールから抜け出しなおかつ手早く終わるようにしないといけないのに、これ全ての問題の解決って可能なのでしょうか……?

 実際、諦めました。少なくとも当時は。

 

 

 あれから数年。 (はじめてのおつかい並感)

 トランプで遊戯王っぽい遊びができないかと考え、ある程度実現することに成功した現在のぼくは、ふとダークソウルすごろくのことを思い出します。そして、トランプの神の声が聞こえた気がしました。

「原作再現を優先順位の1にするな。トランプ遊戯王を考え始めた頃、数字の1~4だけがリリースなしで通常召喚できるルールはクソゲーだっただろう。再現(もといパクり)つつも、大切なのはゲームバランスだということを忘れるな」

「なに、気づいたら家の中にサイコロが見当たらなくなってた? そもそも普通の家にサイコロって置いてないと思う? ……トランプにも、1~6の数字があるのだがな」

「なぜ全マップを一度で、もしくは通しで遊ばなければならないのだ? ボスを一つ倒してゴールでいいじゃないか、キリも良い。……それだと他のマップが使えないのが気に食わない? 一回や二回で飽きないすごろくを作りたいのなら、何度も遊ぶ前提なのだろう? なぜ二度目以降も同じマップで遊ぼうとするのだ」

「HPを手軽にカウントする物がない? ジョーカー含めたトランプ計54枚って、すごろくでサイコロ代わりにしている間に全部使うかな……?」

 な、なんかいける気がしてきた。ぼくもう一回頑張ってみるよ神様!

 

 次回、「ダークソウルすごろく作ってみた!(キラっとプリ☆チャン並感)」につづく……。