一切の苦労なく美少女になってみたい
ぼくは現代ではそう珍しくもない、スカートを穿いたことのある男だ。その経験からぼくは、あのヒラヒラした布はあまりにも無防備で、油断するとすぐに風圧もしくは視線の角度に負け中身が見えてしまう物なのだということを知った。
中身が見えること。まだしも、女子のそれならばハプニングの一言で済ませることができるが、男子の場合それはもう破滅的。中身というのは血に塗れた内臓よりも醜い光景だろう。全国のスカートに手を出す女装男子には細心の注意をお願いしたい。
話は変わって、男が美少女に生まれ変わると、困ったことが起きると相場が決まっている。自衛ができないのである。
どこぞの入れ替わり系田舎女子が「男子の目線、スカート注意。人生の基本でしょ」と言っていたが、あれは真理だ。我々男子はスカートとは無縁の存在で、彼女にとっての人生の基本が、男子にとっての非日常であり難関なのだ。
基本が難関。それは勉強ができないことと似ている。基礎ができない、それはもう絶望的に。頭の悪い生徒が赤点を取るのと同じ頻度で、スカートを穿いた男は周囲にトラウマを振りまく。
そんな男が人格をそのままに、体だけ突然美少女に生まれ変わってみろ。スカートの下のパンツさえ守れずにどうやって貞操を守るというのだろうか。男は美少女に生まれ変わっても自衛ができないのである。美少女になってしまうと人生の基本ができない。およそ生きていけない。
というわけで、我々は神龍に会った時のために、その点についての対策を練らねばならない。ぼくはすでに結論を出している。
これは「機動戦士ガンダム サンダーボルト DECEMBER SKY」 を見てから考えたことなのだけれど、ぼくらが立ち回りで自衛するのはもう不可能だ。
すでに男として生きている間に過ぎ去ってしまった「女子の基本を心得る期間」を今から取り戻すことはできない。青春を遥か過去の思い出として何十年も生きつつも、そこから思い立って大学生になっちゃいましたといったタイプの人間ならば、これは例外かもしれないけれど。
ぼくは勉強が苦手だ、出来るようになれる気がしない。なら人生の基本も同じだ。苦手は苦手のままだ。だからもう、努力で解決する道はない。ないから諦める。
結論を言おう。美少女に生まれ変わったら、サイコザクのバックパック的な物を背負えばいい。いくら腕力が貧弱になろうと、背中のアームがぼくを守ってくれる。最終手段としてバズーカも撃てる。無敵だ。
それに想像してみてほしい、サイコザクのバックパックを背負った美少女だぞ? 魅力的じゃあないか、唯一無二的に。もうこれしかない、ぼくらは四肢を残して美少女になったままリユースサイコデバイス的なお助けアイテムを背負うしかないのだ。
少女が背負うのだから当然軽くしてもらわなければならないし、軽くなっても戦闘力は据え置きでいてくれなければ困るし、背負っていても他人からなんら違和感を抱かれない環境も用意されていなければ生きていけない。特に最後の物が欠けると、一歩外へ出れば銃刀法どころじゃない理由で連れていかれてしまう。
というわけで、神龍に願うことは以下の通りだ。
「ぼくをサイコザクのバックパック的な物(人間に合わせたサイズで取り外し可能、めちゃ軽い、めちゃ強い、別に四肢は切り落とさなくてもいいし背負った本人に戦闘センスがなくてもほとんど自動でいい感じに戦ってくれる名刀電光丸仕様の物。しかも背負っていても誰も何も違和感を抱かないオマケ付き)を背負った美少女(見た目はもちろん声もかわいい)にしてくれ!」
……これを神龍が一つの願いとして扱ってくれるだろうか? たぶん無理だろう。きっとぼくが集めるべきドラゴンボールの数は句読点に七をかけた数字になるだろう。
これでは無理なので、代案を出すことにする。
要するに、ずっと美少女でいるから危ないのだ。男に会う時だけ、自分も男であれば何も危険はない。というわけで換装である。ぼくらは都合に合わせて男になったり女になったりすればいいのだ。
しかし男と女は表裏一体、近いようで真逆の存在。それだけ大胆な換装をするキャラクターが、はたして世の中にいただろうか?
例えばらんま、あれはダメだ。あれは、換装を自分の意志ではコントロールできないという制約を背負っているからああなのだ。その制約を放棄すると、たぶんおそろしくブサイクになる。でもぼくはそんな制約いやだ、もっと自由に換装したい。
換装といえばガンダムなので(論理の飛躍)、ここはガンダムを基準に考えてみよう。ぼくはほとんどゲームでしかガンダムを知らないので、基準はアニメではなくゲームとする。
Ez8はBRだろうと180mmキャノンだろうと射撃主体だし、ユニコーンは時間制限付きだし、シナンジュはマキシブースト以来換装をやめてしまったし、なんだかそれぞれが真逆を行く換装機は存在しない気がする。
しかし男と女という真逆の存在への換装を試みるからには、射撃特化と格闘特化のように極端な換装をする機体でなければ、今回の参考にはならない。
ならばインパルスはどうだ。ソードとブラストでいい感じだ。が、今度はフォースの存在が出てくる。つまり、極端な換装をするとなるともう一つ、何か中間的な機能の換装候補を持っておかなければならないということだ。
射撃と格闘の間が機動力だったなら、男と女の間はなんだ? ……そりゃ、IKKOだろう。ダメだ、この線も却下する。万が一の操作ミスで一瞬でもIKKOに変身してしまうリスクは重い。
性別の換装を求める道に希望はないのか。前例はないのか。これは、不可能なことなのか。そんなことを考えていると、もう一つ例を思い出した。カプル&コレンカプルだ。
あれは射撃と格闘を極端に切り替える。が、弱い。ひたすらに弱い。これを男女に置き換えるとどうなる? どっちにしろブサイクになるということだ。ひたすらにブサイクになるということだ。これも却下。
結論として、ぼくは性別の換装も諦めることになる。世界が、ガンダムが、それは神の力をもってしても不可能なことなのだとぼくに言っているからだ。
一切の苦労なく美少女になれる日は遠い。