思い付きカギカッコ

 ・男女平等と性犯罪重罰化とYOU DIED

「……はっ! 俺はなにをして、ってあれ!? なんか目の前に眠っている自分の姿が見える……」

「やっほー、ワシ神様。YOU死んじゃったYO!」

「えっ、嘘だろ……? 俺が死ぬわけないし、神様のノリがこんなに軽いわけもない。 ジャニーさんみたいな神様なんて存在しない」

「ジャニーさんって人の名前憶えるの苦手らしくて、それでYOUってよく言うんだってよ」

「こんな人間界の嘘か本当かわからない豆知識に詳しい神様がいるわけがない!」

「いや、まあ落ち着いておくれ。本当に君は死んじゃったんだよ。心臓麻痺で、こう、ポックリと。若いのにドンマイだねー」

「嘘だろ……。というか、人の死をドンマイの一言で片づけるのは、いくら神様でもやめてくれ」

「あ、すまんすまん。数多の命を生み出し、それが失われていく様を見慣れているとつい、ね」

「はぁ。……で、神様、俺は今どういう状態なんですか。死んだらあの世へ行くんじゃないんですか」

「行くよ。行くけど、君の場合は死が突然すぎたから、まだあの世の受け入れ準備が整ってないんだ。少しの間は、二度と肉体に戻れない幽体離脱みたいな感じで現世に残るよ。まあ大体一週間くらいかな。それまではほら、浮けるし、あらゆる物が体をすり抜けるし。そんな感じの、死んだからこその特性を楽しんでくれたまえ」

「いりませんよそんな楽しみ……。そんなことよりも、まだあの世に行かないのなら生き返る方法を模索する方が」

「そんな方法いくら探しても見つから」

「あっ!」

「うわっ、なに……? 神様発言を遮られるの珍しくてびっくりしたよ」

「もう死んだなら、生き返れないなら、そして幽霊のような特性があるのなら。……もういっそ冥土の土産として、女湯を覗けばいいんじゃないか!?」

「君、なかなかの人間性持ってるねー」

「さっそく行ってきます!」

「あー待て待て、やめときなさい。神様から忠告がある。倫理観とかの話じゃないから聞きたまえ」

「なんですか」

「最近、死後の世界でも性犯罪には厳しくなってね。男性の幽体は、女性の裸もしくはそれに準ずる姿を見ると、全身が焼け溶けそうな激痛に襲われるようになっているよ」

「あまりにひどすぎる」

「裸を見ようって方もなかなかひどいとは思うけどね」

「え、それ、女性の場合はどうなるんですか? 女性の幽体が男性の裸を見た場合は? まさかお咎め無しなんてことないでしょうね。それじゃあ男女差別ってものですよ」

「君が一体なにと戦っているのかは知らんが、というかおおよそ八つ当たりで言ってるんだろうけど、まあ結論から言えばもちろん女性にも男性と似たようなペナルティはあるよ」

「似たようなってなんですか。同じじゃないんですか」

「ああ、女性の場合はね、男性の裸などを見ると、抗いがたい強烈な嘔吐感に襲われるようになっている」

「なんかそれ失礼じゃないですか!? 絵面がもうすでに失礼ですよね!?」

「なに言ってるんだ、胃液を吐きつくしてなお収まらないほどの吐き気だぞ?」

「いや、苦痛なのはわかりますけど……。……あれ、じゃあちょっと待ってください。俺は違いますけど、もしも同性愛者の幽体が、同性の裸などを見た場合はどうなるんですか? 俺が女の裸見ることとニュアンスは変わりませんよね?」

「ああ、それはね、実はこれがお咎め無しなんだ。見放題だよ」

「なにゆえ!?」

「同性愛者関連の決め事は人間界と同じく、こちらの世界でもまだ進んでない部分が多くてね……」

「ロクでもないな死後の世界」

 

 

 ・姉と甘エビ。

「あ、その甘エビ取って」

「はいよ。……bさんって本当にエビ好きだね」

「うん。aくんは食べないの? 回転寿司なんだからさー、注文した物待つだけじゃ味気ないよ」

「いいの? 僕が本気出したら三十皿くらい食べるけど、今日割り勘だよ?」

「え、そんなところで気を遣ってたの? キモいわー」

「いや冗談に決まってるじゃん」

「今日どころか常に割り勘だしね」

「いくら男でも、いくら回転する寿司でも、学生身分で奢れと言われるとなかなかつらいものがある」

「わかってるから割り勘にしようって言ってるじゃん。ほら、三十皿でも三百皿でも食べなよ、わたしは太っ腹だからね」

「ふーん……」

「それ以上わたしの腹部へその視線を向けるのならば容赦はしない」

「ごめんって」

「あ、そういえば話そうと思っていたことを思い出した。この前会ったaくんのお姉さんさ、弟思いの優しい人って感じがしていいなーと思ったの。うちの兄貴も、妹思いの絵に描いたような素晴らしい下僕、もとい兄だったらよかったのに」

「もはや躊躇うことなく下僕と口走るbさんに僕は若干引いてるけど、それはともかく、うちの姉さんはそんないいもんじゃないと思うよ。弟思いというか、それ通り越してブラコンなところあるし」

「え、血縁内で恋愛はやばいよ。子どもとか奇形児になる確率高いんだって」

「そこまで生々しい肉体関係が結ばれてたらこんな話してないわ。そんな関係を迫られてたら、もっと真剣な相談事として助けを求めてるわ」

「あはは、そりゃそうだ。でも、ブラコンって具体的にどういうところが?」

「頻繁に抱き着いてきたり」

「姉なら普通でしょ。兄が同じことしてきたらわたしは殴るけど」

「あと、ちょくちょく冗談っぽくキスしようとしてきたり」

「外国ではハグとかキスとかスキンシップの一環であるみたいだし、何よりあんな美人なお姉さんにそんなことしてもらえるならaくんも本望じゃない?」

「唇にだよ? 冗談めかしているとはいえ、なんか毎度あわよくばなオーラを感じるし」

「唇にキスは……ちょっとあれかもね。姉と弟だし」

「でしょ?」

「ええ、しかも所謂Aであるキスが終われば、BとCが来るのはすぐだと雑誌に書いてあったし」

「いやそれ姉との関係を語った雑誌ではないよね? というかそんな雑誌を読んでます報告はいらないから」

「雑誌なんて可愛い物でしょ、aくんの検索履歴なんか全国の女性に公開したら国単位で混乱が起こるでしょうに」

「起こりません。そんなエグい検索履歴はありません」

「ふーん。……あれ、aくんも甘エビ食べるの? 取るならさっきわたしの取った時に一緒に取ればいいのに」

「bさんが食べてるの見たらなんか食べたくなってきたから」

「きもい、ありえない、きもい」

「as much as的な並びにするのやめて」

「よし、その食べたエビの殻見せなさい」

「え? この尻尾のところ? ……美味しくないと思うよ」

「わたしをエビなら殻でも何でも食べるモンスターだと思ってるみたいね、良い覚悟だと思うわ。それはともかく……うん、合格!」

「え、なにが」

「この尻尾の殻の中にさ、身を残したまま捨てる人がいるじゃない?」

「あー。あの気を付けて食べないとちょっと残るところね」

「aくんが残す人だったら、体中の穴という穴にワサビを突っ込むつもりだったけど、そんな非人道的な拷問をする必要がなかったみたいでわたしも嬉しいわ」

「僕はそれを聞いて戦慄だよ。……ああそうだ。言われて思い出したけど、そういえばこの甘エビの身を残さないようにするの、姉さんのおかげで身についたことなんだ」

「へえ、弟にいい教育をするお姉さんみたいね」

「アサリとかの貝柱もそうだったな。僕が食べ残すとさ、姉さんが殻入れの中からわざわざ漁って食べるんだよ」

「aくん、そういうの勝手にカミングアウトして恨みを買っても知らないよ」

「え、なにが? ……まあそういうわけで、姉が僕の食べ残しをわざわざ食べる姿を見て、あぁちゃんと残さないように食べなきゃいけないんだなぁと幼き日の僕は思ったわけさ。今思えば、教育としては子どもに自ら考える機会を与える素晴らしいものだったね。姉さん学校の先生とか目指すのかな」

「aくんのお姉さんの進路は知らないけど、わたしはエビの価値を正しく理解している人間がこの世にいたこと、そしてその人がその価値観を広めてくれたことに感謝するわ」

「bさんはエビ関係の宗教とか目指すの?」

「嫌だよそんなの」